ソフトウェア開発論の古典であり名著 「ピープルウェア」.
プロジェクト管理の権威、トム・デマルコと、ティモシー・リスターとの共著の本書.
初版は1989年発行、30年以上前に掛かれた本ですが全く古さを感じさせません.
プロジェクト管理者のみならず、現場の最前線で活躍するソフトウェアエンジニアにも読んでほしい一冊です.
ソフトウェアエンジニアに限らず、文筆業、デザイナー、映像クリエーターなど、すべての知的生産に携わる方にも有益な本かと.
Table of Contents
干シタル庁 大臣
「干シタル庁 大臣」という名誉ある名前を襲名された大臣のニュースを聞いて, 「たぶん大臣はこの本を読んだことないだろうなぁ」なんて想像しました.
「恫喝すれば人は動く」なんて前世代的な考え方, 国の中枢を司る大臣がその様な考え方をお持ちなので、一般社会でもそのような考えをお持ちの方が一定の割合で生息されてるんだろな、と想像に難くないです.
30年以上前に書かれた本が未だに古さを感じさせないのは、そういう方々が未だにいらっしゃるから、という悲しい理由によるものです.
第1部 人材を活用する
時間が無い方は第1部だけでも読んでみてください.
筆者は500以上のソフトウェア・プロジェクトのデータを分析し、そのうちの15%が失敗という衝撃の事実が述べられています.
さらに、プロジェクトの失敗の原因が単なる技術的な問題として片付けられている点にも触れています.
ところが問題の本質は技術的な問題ではなく、社会的問題にある、と述べています.
実際のところ、
第1部 第1章より
ソフトウェア開発上の問題の多くは、
技術的というより社会学的なものである.
社会学、すなわち人に関する問題をこの本のテーマにした、と著者は述べてます.
管理者の多くは「人に気を配っている」と思い込んでいるが、実際にそうしている管理者はほとんどいない、とかなり厳しいことが書かれてます.
管理者がやりがちな人を交換可能な部品のように扱う、このことの弊害にも触れています.
そしてこの1部で紙面を割いて繰り返し書いてるのが、プレッシャーをかけて生産性を上げるようにしかけても、
早くヤレとせかせれば、
第1部 第3章より
雑な仕事をするだけで、
質の高い仕事はしない。
恫喝し、プレッシャーをかけてもいい結果は生まれない、って30年前の本にもしっかり描かれてるんですけどねぇ…
第2部 オフィス環境と生産性
ソフトウェアというもの、知的な生産者によって脳みそを振り絞って創り出されるものです.
その生産効率をオフィス環境にフォーカスして述べています.
すなわち、それぞれの知的な生産者にとってどれだけ長い時間、考える時間、精神集中できる時間を用意できるか、電話やまわりのバカ話、騒音など、その阻害要因について書いています.
プロジェクト課員同士のコミュニケーションがとりやすい環境、ということは良く気にしますが、知的生産者の各自が神経を集中して考えられる環境についてはあまり気にしていないような気がします.
それは管理者だけの責任ではなく、我々ができること、
- 周りで集中している人がいれば声のトーンを下げる
- 会議は別室で行う
等々の気配りが必要だなあ、と気づかされました. 自分が嫌だと思ったことは他人にもしない、ということですね…
第5部 きっとそこは楽しいところ
仕事は本来耐えるもの、楽しいはずがない、と思われがちだが、この章では
仕事は楽しくあるべき
ということが述べられています. 興味深い箇所です.
ピープルウェア第3版
この本を最初に読んだのが30年前、職場にあった第1版を何げなく手に取ったのですが、あまりの面白さに一気に読んでしまった記憶があります.
いま手元にあるのが第2版、2001年に出版され「第6部 ピープルウェアの小さな続編」が追加. CMM (ソフトウェア能力成熟度モデル) にも言及されてます.
そして2013年に第3版が出版されたのは知りませんでした. いくつかの章が追加されているとのことで、第3版を手に入れて新しい章を含め、再度読みなおしてみます.
人月で作業の規模を図られるソフトウェア開発ですけど、開発するのは交換不可能な人間で、人間の頭が考えて生み出すもの、そしてやる気がなければ生産性も上がらない、というあたりまえだけど誰も書いてこなかったことを明確にかいてある貴重な本です.
新人さん、ベテランさんを問わず、一読いただきたい本です.
こんな時代ですからね.